親子で挑戦!英検合格を子どもの「英語が好き」という気持ちと自信につなげるための関わり方
はじめに:小学生の英検受験ブームとその背景
近年、小学生の英語学習において、実用英語技能検定(以下、英検)への注目が急速に高まっています。日本英語検定協会の発表によると、2023年度の英検志願者数(実用英語技能検定、英検IBA、英検Jr.の合算)のうち、「小学校以下」は551,604人に達しており、これは全体の約12.2%を占める数字です [1]。さらに遡ると、2020年度の325,390人からわずか3年で1.7倍近くに増加しており、小学生の英語学習における英検の位置づけが大きく変化していることがうかがえます。
この数字を別の角度から見ると、イーオンのコラムによれば、2023年度(令和5年)の学校基本統計に基づく全国の小学生約604万人のうち、英検を受験した人数は55万人以上で、これは約9.1%に相当するとされています [2]。つまり、小学生の約10人に1人が英検に挑戦している計算になります。
では、なぜ今、これほど多くの小学生が英検に挑戦しているのでしょうか。その背景には、2020年度から小学校で英語が教科化されたことに加え、中学受験や高校受験における英語力の証明として、また、グローバル化が進む社会で将来的に必要となる英語力の基礎を早期に築きたいという保護者の意識の高まりがあります。しかし、多くの保護者が英検合格を目指す一方で、「合格」という結果だけが目的化してしまうことへの懸念も存在します。
本記事では、英検合格を単なるゴールとして捉えるのではなく、そこに至るまでの過程を通じて、子どもの「英語が好き」という純粋な気持ちと、「自分はできる」という確固たる自信をいかに育んでいくか、という視点に立ちます。様々な調査データや事実に基づき、憶測を排した客観的な情報を提供しながら、親子で英検に挑戦する上での効果的な関わり方について、具体的かつ実践的に探求していきます。
データで見る、子どもの英語学習と親の関わり方のリアル
親子での英検挑戦を考える上で、まずは現在の小学生の英語学習と、それに対する保護者の関与の実態を客観的なデータから見ていきましょう。
子どもの英語学習の現状
前述の通り、小学生の英検志願者数は年々増加傾向にあります。日本英語検定協会が公表している過去5年間の志願者数の推移を見ると、その勢いは明らかです。
年度 | 小学校以下の志願者数 | 全体に占める割合(概算) |
2020年度 | 325,390人 | 約8.9% |
2021年度 | 461,154人 | 約11.2% |
2022年度 | 524,833人 | 約12.5% |
2023年度 | 551,604人 | 約12.2% |
2024年度 | 547,536人 | 約12.2% |
出典:日本英語検定協会「受験の状況」[1]より作成
この表からも、コロナ禍を経てもなお、小学生の英語学習熱、特に英検への関心が高い水準で維持されていることが分かります。級別の受験傾向については、多くの場合、低学年では5級や4級から始まり、学年が上がるにつれてより上位の級に挑戦する傾向が見られるようですが、これは個別の教育機関や専門家の観察に基づくものであります。実際の選択は、子どもの学習進度や興味、家庭の方針によって大きく異なるのが実情です。
親の関与の実態と課題
子どもの英語学習の盛り上がりの一方で、保護者はどのように関わっているのでしょうか。株式会社学研ホールディングスのスキルアップ研究所が2025年6月に実施した「子どもの英語学習における親の関与実態調査」[3]は、そのリアルな姿を浮き彫りにしています。
この調査は、英語を学習中の中学生以下の子どもを持つ保護者200名を対象としたインターネット調査です。全国の全家庭を代表するには限定的なサンプル数ですが、現在の親の関与状況を把握する上で貴重なデータを提供しています。調査によると、子どもの英語学習をサポートする時間は、学年が上がるにつれて減少する傾向にあります。特に中学生の子どもを持つ保護者のうち、約60%が「ほとんど関わっていない」と回答しており、子どもの自律に任せる家庭が増えていく様子が見られます。
では、なぜ保護者は関わりたくても関われないのでしょうか。同調査で「あまり関与していない」と回答した保護者にその理由を尋ねたところ、最も多かった回答は「自分の英語力に自信がない」(57.7%)でした。次いで、「子ども自身のペースで進めてほしい/自主性を尊重したい」(40.8%)、「仕事や家事で時間がない」(39.4%)と続きます。
子どもの英語学習に関わる中で、保護者が感じる不安として「英語力が不足していてサポートが難しい」という声が多く挙がった。子どもを支えたい気持ちはありつつも、自身の英語スキルに不安があり、どう関わればよいか戸惑っている家庭が多いことがうかがえる。
引用:スキルアップ研究所「子どもの英語学習における親の関与実態調査」[3]
この結果は、多くの保護者が「子どもの英語学習をサポートしたい」という気持ちはありながらも、「自分の英語力に自信がない」「どう関わればいいか分からない」という大きな壁を感じているという、切実なジレンマを明らかにしています。この「親の不安」こそが、本記事で解決を目指す中心的な課題の一つです。
英検合格がもたらす、子どもの学習への影響
親の不安とは裏腹に、子どもにとって英検合格という経験は、英語力以上の価値をもたらす可能性があります。ここでは、教育現場での観察や教育心理学の研究知見を基に、その影響について考察します。
成功体験と学習意欲の関係
英会話スクールのイーオン(AEON)が公開しているコラムでは、英検合格のメリットとして「子どもの達成感や自己肯定感につながる」点が挙げられています [2]。
英検®受験にチャレンジし合格することは、子どもに達成感を与え、自己肯定感を高めるきっかけとなります。英検®は合否判定があり、頑張った結果が形になるからです。目標に向かって努力する経験と、その達成感は、子どもの成長にとって大きな財産になると言えるでしょう。
引用:イーオンの英会話コラム「約55万人が受験!小学生で英検®を受ける意外なメリット」[2]
教育心理学の研究では、明確な目標に向かって計画を立て、努力を重ね、そして目標を達成するという一連のプロセスが、子どもの学習意欲や自己効力感(「自分はやればできる」という感覚)の向上に寄与する可能性があることが示されています。ただし、これらの効果は個人差が大きく、また英検合格という特定の経験が必ずしもこうした心理的効果をもたらすとは限らないことも重要な点です。子どもの性格、学習環境、家庭のサポート体制など、様々な要因が複合的に影響することを理解しておく必要があります。
中学校英語への移行における影響
小学校のうちに英検を通じて英語の基礎を固めておくことは、中学校での学習をスムーズにスタートさせる上でも一定の効果が期待されます。中学校では学習内容がより高度になり、授業のスピードも上がります。その中で、小学校時代に培った英語の基礎知識や学習習慣は、新しい環境での学習を支える要素となり得ます。ただし、これも個人の学習スタイルや中学校での指導方法によって効果は異なるため、一律に効果があるとは言い切れません。
客観的な指標としての英検の価値
英検は、子どもの現在の英語力を「級」という形で客観的に示してくれます。これにより、親子で「次は〇級を目指そう」「この分野をもう少し頑張ろう」といった具体的な次の目標を設定しやすくなります。漠然と英語を学習するのではなく、明確なマイルストーンがあることで、学習の方向性を定めやすくなるのです。英検は、親子のコミュニケーションを促進し、共に学習計画を立てるための有効なツールとなり得ます。
「英語が好き」を育む、親子の効果的な関わり方【実践編】
では、子どもの「英語が好き」という気持ちと学習意欲を育むために、親は具体的にどのように関わっていけばよいのでしょうか。ここでは、子どもの発達段階に合わせて3つのステージに分け、実践的な関わり方を提案します。
ステージ1:英語への興味を引き出す(幼児〜小学校低学年)
この時期の目標は、英語を「勉強」ではなく「楽しいもの」としてインプットすることです。英語の歌を一緒に歌ったり、英語の絵本を読み聞かせたり、アニメや動画を英語音声で楽しんだりすることから始めましょう。大切なのは、親が英語が得意である必要は全くないということです。むしろ、親自身が「英語って楽しいね」という姿勢で一緒に楽しむことが、子どもにとって重要な動機付けになる可能性があります。日常生活の中に、「Good morning」「Thank you」といった簡単な挨拶や単語を自然に取り入れるだけでも、英語は特別なものではなく、身近なコミュニケーションツールであるという認識が育ちます。
ステージ2:英検挑戦をサポートする(小学校中学年〜高学年)
子どもが英検に興味を持ち始めたら、いよいよ本格的なサポートの始まりです。ここでの親の役割は「教師」ではなく、「コーチ」であり「伴走者」です。
1. 無理のない目標設定: まずは子どもと十分に話し合い、どの級から挑戦するかを決めましょう。いきなり高い目標を掲げるのではなく、「少し頑張れば届きそう」な級から始めるのが成功の鍵です。そして何よりも、「合格できなくても、挑戦したことが素晴らしい」というメッセージを伝え、合否だけにこだわらない安心できる環境を作ることが大切です。
2. 学習習慣の定着: 毎日5分でも10分でも、英語に触れる時間を作ることが重要です。単語帳を眺める、リスニング問題を1問だけ解くなど、ハードルを低く設定し、継続することを最優先します。近年では、ゲーム感覚で学べるアプリやオンライン教材も豊富にあります。子どもが「楽しい」と感じる方法を一緒に探してあげましょう。
3. 「教える」のではなく「一緒に考える」: 子どもが分からない問題に直面した時、すぐに答えを教えるのは得策ではありません。「どうしてこの答えになるんだろう?」「辞書で調べてみようか」など、一緒に考える姿勢を見せましょう。親が答えを知らなくても、調べ方や考え方のプロセスをサポートすることで、子どもの思考力と問題解決能力を養うことができます。
4. 効果的な「褒め方」: 子どもを褒めることは重要ですが、その方法には工夫が必要です。単に「すごいね」と結果を褒めるだけでなく、「昨日より単語をたくさん覚えたね」「苦手な問題に集中して取り組めたね」など、努力の過程を具体的に褒めるようにしましょう。教育心理学の研究では、このような「プロセス褒め」が子どもの内発的動機付けを高め、困難な課題にも挑戦し続ける力を育む効果があることが示されています。
ステージ3:自律的な学習者へと導く(中学生以降)
中学生になると、子どもの興味関心はさらに多様化し、自律性も高まります。この段階では、親は管理者のような立場から一歩引き、子どもの学習を見守り、必要な時に相談に乗る「サポーター」へと役割を移行していくことが求められます。子どもの好きな映画や音楽、スポーツなど、興味のある分野と英語を結びつけて学習方法を一緒に考えたり、将来の夢や目標について語り合い、そのために英語がどう役立つかを一緒に考えたりするパートナーとしての関わりが理想的です。親が子どもの最大の理解者であり、応援団であることを伝え続けることが、長期的な学習意欲を支える基盤となります。
親の「英語力への不安」を乗り越えるために
ここまで読んで、「やはり自分の英語力ではサポートは難しい」と感じた方もいるかもしれません。しかし、改めて強調したいのは、親の英語力は、子どもの英語学習の成功に必須ではないということです。前述の学研の調査[3]でも、8割以上の保護者が自身の英語力を「初心者〜初級レベル」と回答している一方で、多くの子どもたちが英語学習に取り組んでいます。
最も大切なのは、英語力そのものではなく、子どもと一緒に学ぼうとする前向きな姿勢です。子どもが単語を調べていたら、「どんな意味?教えて」と尋ねてみる。子どもが英語の歌を歌っていたら、一緒に口ずさんでみる。そのような親の姿は、子どもにとって「自分だけが勉強しているのではない」という心強いメッセージとなり、学習への動機付けとなる可能性があります。
現代では、親子で使える英語学習サービスや、高精度な翻訳アプリも数多く存在します。これらを「親の英語力を補うツール」として活用することで、英語力に自信がない保護者でも子どもの学習をサポートすることは可能です。ただし、これらのツールの効果は使い方や子どもの学習スタイルによって異なるため、子どもに合った方法を見つけることが重要です。
おわりに:英検は親子の絆を深めるコミュニケーションツール
英検への挑戦は、単に英語力を測るためだけのものではありません。それは、親子で共通の目標に向かって協力し、励まし合い、時には一緒に悩みながら乗り越えていく、かけがえのないコミュニケーションの機会です。
「今日は〇ページ進んだね」「この問題、難しかったけどよく頑張ったね」——。そんな日々の何気ない会話を通じて、親は子どもの努力を認め、子どもは親の愛情を感じる。合格すれば共に喜び、たとえ不合格だったとしても、「次また頑張ろう」と励まし合う。そのすべての経験が、子どもの内面的な成長を促し、親子の絆をより一層深めてくれる可能性があります。
英検という一つの目標を通じて得られるものは、合格証書だけではありません。その過程で育まれる子どもの「英語が好き」という気持ち、困難に立ち向かう姿勢、そして何よりも、親子で分かち合った時間と経験こそが、生涯にわたる価値ある財産となるのです。
参考文献
[1] 公益財団法人 日本英語検定協会. (n.d.). 受験の状況. Retrieved from https://www.eiken.or.jp/eiken/about/situation/
[2] 株式会社イーオン. (2025, July 22). 約55万人が受験!小学生で英検®を受ける意外なメリット. Retrieved from https://www.aeonet.co.jp/column/post_61.html
[3] 株式会社学研ホールディングス スキルアップ研究所. (2025, June 24). 子どもの英語学習における親の関与実態調査. Retrieved from https://reskill.gakken.jp/4989